07/18/2008

ハウファラウェイ is it?

英語で“How far away is Ueno station?”と言えば、「上野駅までは(ここから)どれくらい(の距離)ですか」というほどの意味である。僕が英語を教えている生徒の一人は、この表現の中の“away”という言葉の意味がよくわからないという。

確かに、“away”をとって“How far is Ueno station?”といってもほとんど同じ意味で通じる。だから、この生徒さんからしてみれば、“away”が訳文のなかでどういう意味をもっているのかわからないということらしい。そもそも、英文と訳文で単語レヴェルで一対一の対応があるという考え方がまちがっているのだが、それにしても“away”という意味は訳文にどのように表れているか、という問題は残る。

それから、“How far…?”と言うことはできるのに、“How away…?”とは言えない(そういう表現は普通の英語には無い)ということもよく理解できないという。

こういう質問に答えるのは案外難しい。というのも、この種の表現は、英語で生活したことのある人にとっては何が問題なのかわからないくらい自然に感じられるものであり、しかも、英語を学習している側にとっても、具体的に一体なにがわからないのかわからないようなものだからだ。

これに対して「ぐだぐだ言わずにこのくらいは覚えてしまいなさい」というのは間違ってはいない(と僕は思う)。しかし、この“答え”を聞いた生徒が、「こういう表現には説明がつかないのだ、また暗記か…」とか「この先生はこんなシンプルな表現の説明もできない、または怠慢でやらないのだ」とか思ってしまうようだと困る。

ということで、以下に一応僕なりの説明のアウトラインを書いてみることにする。

まず、“how”という疑問副詞の用法をみる。“How”を含む慣用表現は傍に置いておくとして、howの一般用法は「どのように?」と方法、手段、状態を尋ねる、というものである。例としては
How did you do that? (どうやってやったの?[方法])
How will you get there? By train>? (何で行くの?電車?[手段])
How are you? (元気?[状態])
など。これに加えて、“how + 形容詞または副詞 …?”で、「どのくらい?」と程度を尋ねる用法がある。例としては、問題となっている“How far is Ueno station?”の他に
How deep is the ocean?(海はどれほど深いのか)
How old are you? (おいくつですか?)
How many students take calculus? (微分積分のクラスをとっているのはどのくらい[の数の生徒]ですか?)
など。つまり、“how”という疑問副詞は、一般的には、方法、手段、状態、そして程度を尋ねるのに用いられるということだ。(以上『ロイヤル英文法・改訂新版』(=以下REGと略す)§111, p.248参照)

さて、次に副詞の意味上の分類を少し考える。煩わしいので具体的な例は省略するが、英語の副詞には、主として様態(速度、態度)、場所(位置、方向)、時(時点、期間)、頻度、そしてその他の程度および強調を表すものがある。(REG §113, pp.311-3参照)

注目すべきなのは、“far”という副詞は「遠くに、はるかに」といった意味で、これは空間的・時間的距離の程度を意味するものであるが、“away”という副詞は「離れて、あちらへ」と言った意味で、これは空間的・時間的方向を意味するものであるということである。

頻度や(ほとんどの)様態などと同じく、距離には程度がある。対して、時点や位置とおなじで、方向には(この意味では)程度があるとはいえない。具体的に言えば、「どのくらい頻繁に(頻度)」とか「どのくらい丁寧に(様態)」と同じで「どのくらい遠くに(距離)」というのは理にかなっているが、「どのくらい今(時点)」とか「どのくらい東京で(位置)」というのがナンセンスであるように、「どのくらいあちら向きの方向で」というのは意味をなさないのである。

さらに、上述の通り、疑問副詞としての“how”は、副詞あるいは形容詞と結合して“程度”を尋ねるのに用いられる。だから、概念上、“程度”というパラメータのない“away”という副詞を使って“how away…?”とは言えないのである。“How away…?”というのが奇妙に聞こえるのは、“How to London…?”(「どのくらいロンドン向きで…?」)というのが奇妙に聞こえるのとまったく同じ理由である。

ここで混乱の元になっていると思われるのは、日本語では「どのくらい離れて」とか「どのくらい向こうで」とかいう表現はごく自然なものであり、これらを英語に直訳すると「How away」になるのではないかという思い込みである。ところが、今みたように、副詞の概念的な意味上の分類を考えると、これが間違いであることに気がつく。

これで、最初にあげた生徒の質問の二つ目に答えたことになる。ここまでの考察を基に、最初の質問にも答えてみよう。

端的に言ってしまえば、“How far away…?”という疑問文における副詞“away”の役割は、その直前にくる副詞“far”を修飾する、というものである。REGのp.311にある通り、「副詞は動詞を修飾するだけでなく、形容詞やほかの副詞をも修飾」するから、副詞が副詞を修飾することは珍しくない。

むしろ、先ほどあげたような意味上の分類を考えると、“How far…?”といって距離の程度を尋ねる時に、“away”という方向を特定する副詞で意味を限定することが、とても自然なことであることがわかる。なぜなら、厳密に言えば、“far”という単語には方向の概念は含まれていないからである。

このことがいささか直感的でないのは、ほとんどの場合、“far”という単語がでてきた時点で、ここで尋ねられている距離の方向的な属性が会話の文脈から明らかになっているからである。このため、“far”と言ったあとに“away”というと重複であるかのように思えてしまう。しかしこれは誤解である。確かに辞書で“far”を引くと「遠く」とか「遠くに」と書いてあるが、これは必ずしも「“この場所から”遠く」という意味ではない。

逆にこのことが、“How far away…?”という表現では、ほとんどの場合awayを省略できることの説明になる。この表現が使われる文脈では、尋ねられている距離が「ここ(会話が行われている場所)からある離れた場所までの距離」であることが自明だからである。

一言でいうと、“How far away…?”というのは特定の方向(“ここ”から“離れた場所、あちら”へ向かう方向)に関する距離の程度を尋ねる質問である。“away”の役割は、尋ねられている距離の方向を特定することである。これが最初の質問への答えである。

もちろん、“How far…?”に“away”ではない方向を表す副詞を結合させることも可能である。例えば、
How far out did the home run ball go? (ホームラン球は球場の外へどれくらい遠くまで行きましたか?)
How far apart is the closest moon of Jupitar from the planet?(木星に一番近い木星の月は惑星そのものからどれくらい離れていますか?)
など。

こうした表現が学習者にとっていまいちわかりにくいのは、“far”とか“away”といった単語を、辞書を使って直訳しようとしてしまい、結果として英語の構文全体が重複表現であるように感じてしまう、ということも一つにはあると思う。しかし、文法的な観点からこういう構文を分析したいと思うのならば、辞書を盲信するような凝り固まった考え方ではだめで、極めて理論的に、概念のレヴェルで考えなければいけないだろう。概念的に考えるということは、抽象的に考えるということでもあるので、いわゆる「日本語で考えるから起こるミス」を防ぐのにもある程度は有効であると思われる。

もちろん、一回90分のレッスンの中でいちいちこんな説明をしていたのでは、いくら時間があっても足りないし、第一脳髄にあまりよろしくない。だから、最初に書いた通り、このような質問に対する「ぐだぐだ言わずにこのくらいは覚えてしまいなさい」という答えは、きわめて妥当なものに思えるのである。

posted by Yuuki at 14:09 | Comment(2) | TrackBack(0) | On Language
Comments to this post
例文をたくさん自分のなかに溜めてからのほうが、概念的な説明もわかりやすいはずですもんね。
Posted by ぴらぴら at 07/18/2008 17:03
>ぴらぴら
そうですね。多読すればするほど無意識に例文を頭の中で構文パターンに抽象化して、概念的に理解することができてくるのかもしれません。ここで、「理解している」というのはもちろん「使える」という意味ですが、(論理的な)説明はできないけど(実践的に)使える、というほうが、説明はできるけど使えない、という状態よりよいですからね。
Posted by Yuuki at 07/19/2008 04:30
Post a comment
Name: [required]

Email:

Web:

Comment: [required]

Code: [required]


*画像の中の文字を半角で入力してください。
*Please enter the word in the image.


“Preview”で確認後、“Submit”で投稿して下さい。
TrackBack URL for this post
http://blog.seesaa.jp/tb/103120004

Trackbacks to this post