06/30/2006

世界の舞台でプレーすること:ベッカムの場合

ベスト8が出そろったドイツワールドカップの盛り上がりは世界中で最高潮に達しようとしています。準々決勝が始まる今夜、超ワールドクラスの闘いが繰り広げられる前に、ここまでの大会で個人的に印象に残っている隠れた名場面ともいうべき瞬間を紹介したいと思います。

それは決勝トーナメント一回戦第三試合、イングランド対エクアドル戦でのことでした。

NHK(総合・BS)のテレビ中継は試合開始の15分前から始まって、その時間にはその日のスタメンをはじめとするティームのデータが紹介されます。それに加えて、フィールドに入場する直前の審判と選手たちがスタジアム内で待機している様子も映し出されます。

僕はこのキックオフ直前の緊張感に溢れた空気はいいなぁと思っていて、談笑する審判の後ろで細かく動いたり深呼吸をしたりしている選手たちを見ることが結構好きなのですが、その夜も両ティームの選手はどんな様子かな、と思って見ていたわけです。

そうするとやはり目につくのはキャプテンとして先頭で入場するイングランドのデヴィッド・ベッカムです。彼は審判と二言三言言葉を交わしたかと思うと今度はエスコートキッズ(選手と手をつないで入場する子どもたち)と楽しそうに談笑していました。

自分のとなりにいる子だけでなく、その後ろの子どもたちにも話しかけて頭を撫でたりもしているベッカム。子どもたちも嬉しそうにイングランドのヒーローを見上げていたのでした。

その後選手入場、国歌斉唱とすみやかに進行し、さあいよいよ緊張のキックオフです。両ティームの選手が握手を交わした後、イングランドのベッカムとエクアドルのウルタド、両キャプテンが中央に来て、ペナントと白いボールを交換し、コイントスをします。

ベッカムはこの時も穏やかな笑顔で、コイントスの際には笑いもこぼれていました。そして彼は審判一人一人と固く握手を交わし、最後に敵ティームキャプテンのウルタドの手をがっちり握って互いの肩をあわせて健闘を誓い合いました。

まさにその後の一瞬でした。試合前のセレモニーを終止笑顔でこなしてきたベッカムの顔が一度に厳しくなり、振り返ってイングランドの円陣にむかうときにはすでに完全に「戦う男」の表情に変わっていたのです。

これは瞬間的な出来事だったのですが、僕はこれを見て「うむむ」とうなってしまいました。これが世界の舞台でプレーする選手のあるべき姿ではないか、と思ったわけです。緊張感、真剣さ、相手に対する尊敬、そしてなによりサッカーを楽しむ気持ち。これらすべての気持ちが非常に高いレヴェルで同居していたように思います。

いうまでもなくこの試合では、絶妙のカーブを描いてゴールネットを揺らしたベッカムのフリーキックが決勝点となりました。

ティームスポーツをしたり、バンドやオーケストラで演奏したことがある人なら特にピンと来るかと思うのですが、今紹介したようなベッカムのフィールド外でのプレーから学ぶべきことは、楽しくやることと真剣にやることというのは実は同じことだということです。

大げさなことを言うようですが、「楽しくやればいいじゃないか」、という考え方がいつの間にか「がんばらなくても良いよ」、そしてひいては「適当にやれば」という考え方になってしまったことが、日本のいわゆる「ゆとり教育」の一番の誤解であったような気がします。

楽しむためには強くなければいけないし、強くあること、全力で戦うことが相手に尊敬の念を表現する一番の手段です。勝つことにかたくなにこだわらなければいけないと思いますし、その気持ちがなくなれば本当の意味での喜びを得たり、プレーを楽しんだりすることはできないと思います。

no.1よりもonly one」という考え方は非常に危険だと思います。それは弱者の物言いです。ニーチェなら吐き気を催すところでしょう。ナンバーワンになることが一番価値のあるオンリーワンではないでしょうか?

友情」というようなこともそういった本気のぶつかり合いから生まれるものだと信じます。なんだか男臭い話のような気がしますがそうではなくて。今回のワールドカップの公式スローガンが「A time to make friends, say no to discrimination.」(友達をつくる時だよ! すべての差別にNOと言おう!)ということは残念なことにあまり注目されていないようですが、ベッカムが一瞬垣間見せた信念のようなものはまさにこのスローガンの体現であるような気がします。非常に清々しく、カッコ良くて、強く印象に残っています。

posted by Yuuki at 13:02 | Comment(0) | TrackBack(0) | On Aesthetics
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