10/23/2006

超絶技巧とヴィルトゥオシティ(の違い)

人間業とはとても思えない」演奏ってのがあって、はたしてそれが芸術の経験に関してどういう意味があるのか、作品の価値とどう関連するのかってことなんですけど。

このあたりで「スポーツの美学」ってのがおもしろくなってくるんだよね。スポーツは果たして芸術か、っていわれると、頭から否定はできないけど、スポーツがそのまま芸術なわけではないと思うわけですね。

でも、ただ指が速く回るっていう意味での「超絶技巧」と、いわゆる「ヴィルトゥオシティ(virtuosity)」と呼ばれている何かは全然違うものだと考えます。簡潔に上手く説明できませんが…

とにかく、YouTubeにNHK-BSの何かの番組で高橋悠治さんがクセナキスの「Herma」を弾くクリップがアップロードされていたので紹介したかったのです。何もいわずにまずはご覧下さい。



これいつ頃なのかよくわかりませんけど(誰か教えて下さい)、とにかくこの飄々とした語り口は今も全然変わってない(笑)。

「Herma」は初めて聴いた時ももちろん衝撃的で、これ実際に演奏しているところってどんなんだろうと思っていたわけですが、はぁ、こんなんなんですね…。

これはもはや「超絶技巧」っていう次元で語れる問題じゃないと思うんですよ。「すごいテクニックだな」って思うには、演奏者がやってることがどのくらい難しいことなのかある程度は認識してなきゃいけないわけです。でもこの曲の場合はもうどこがどうなってこういう演奏ができるのかはなっから検討もつかないわけです。

僕は「Herma」は彼の演奏と彼の妹高橋アキさんの演奏を持ってるんですけど、正直な話どちらがいい演奏か比べろっていわれたらどういう風に分析するかわかりません。図書館に楽譜があって、それを借りてきて見ながら聴いたりしますけど、モーツァルトのソナタなんかとは当然まったくわけが違うわけで、音が正しく弾かれてるかさえろくに認識できないわけです。

ストカスティクスなんかを駆使して作曲された作品がこういう風に「躰」を感じさせるってのは、少し逆説的なのかなぁと思ったりもします。

* * *

もう少し伝統的な意味での超絶技巧派(そんな流派があれば、の話ですが)で今一番熱いのはなんといってもアルカディ・ヴォロドスでしょう。とりあえず有名なラフマニノフの協奏曲第二番を貼ってみます。



(続きは各自YouTubeページへ飛んでご覧下さい)

ちなみにこのラフマニノフの2番もすごいですが、小沢征爾/ベルリンフィルとのチャイコフスキーのピアノ協奏曲も凄いです。すいすい弾いてしまっている。

こんなにすいすい弾かれるとどーなの、って思ってしまうほどに。ここがおもしろいところだと思うんですけど、「超絶技巧」を要求する作品って、演奏者がそれなりに「苦労して」弾いてる感じがあると何故かそれも魅力なんですよね。物理的な限界を見せてくれるのが醍醐味である、というか。それで、でもそれってはたして純粋な作品の価値なのかなぁ、って疑問に思うわけです。

ヴォロドスはホロヴィッツの後継者とも言われていて、この二人を比べる人はとても多いわけですけど、僕としてはテクニックだけで言えばヴォロドスはホロヴィッツを上回るという意見に賛成です。

…でもやはりホロヴィッツのほうが比べものにならないほど素晴らしいピアニストだと感じるんですね。彼の場合は「超絶技巧」は前提にすぎなくて、その上に何か果てしない「表現の力」(陳腐ですけど)みたいなものがあって、それが彼の「ヴィルトゥオジティ」を形成しているっていうか。それが違いなんだと思います。

いや、決してヴォロドスに表現力がないって言ってるわけじゃないです、寧ろ彼は凄いと思います。彼のラフマニノフの協奏曲第三番、さらにはシューベルトのアルバム、買おうかどうか迷ってるところです…多分遅かれ早かれ買ってしまうんだろうけど(笑)

* * *

時代とともになにが不可能かは変わっていくわけです。ピアニストのテクニックはどんどん向上しているわけで。もちろん人間が弾く必要性ってのも問われる時がくるかもしれんわけで。つまり機械がまったく同じような演奏をしたらどういう風に感じるかって話ですよ(つまってない・笑)

posted by Yuuki at 06:52 | Comment(0) | TrackBack(0) | On Aesthetics
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