03/15/2008

考えよ人生の旅人

選ばれてあることの 恍惚と恐怖と 二つがあって
わたしの憤りに反して あなたの果てしない寛容
ああ! なんという苦心、しかしなんという激しさ!

(J'ai l'extase et j'ai la terreur d'être choisi.
Je suis indigne, mais je sais votre clémence.
Ah ! quel effort, mais quelle ardeur ! . . .)


―ヴェルレーヌ、『叡智』II, IV
大学院受験結果に関して、引き続き報告させていただきます。どうにも僕は言葉足らずで、書き言葉で今の気持ちを表現するのはちょっと難しく、声を録音してポッドキャストみたいにしようかとも考えましたが、恥ずかしいのでやめます(笑)。

改めて(恥もなく)公開しますが、今回僕は10のプログラムに出願しました。アイウエオ順で、イェール、インディアナ(ブルーミントン)、オックスフォード、シカゴ、スタンフォード、ノートルダム、ミシガン、メリーランド(カレッジパーク)、ルートガーズ、そしてUCバークレーです。

この内一番最初に返事をいただいたのはインディアナで、無事合格ということでした。その後、スタンフォードではウェイトリスト(補欠)に載り、ノートルダム、メリーランド、そして(まさかの)オックスフォードから合格通知をいただいたことは、既に書きました。

その後の経過としては、まずイェールとシカゴに落ちました。ウェイトリストもなしで、この2校はアメリカでの第一、第二志望だったので非常に残念でした。そして、残る3校からは今日に至るまで返答がありません(ということは、良くてウェイトリストか、不合格の可能性高し)。

ただ、インディアナはその後も非常に積極的で、教授陣の論文を送ってくれたり、また初年度TAとして働かなくてもよいというフェローシップもオファーして下さいました。それでも、メリーランドとともにインディアナは最終的には滑り止めだったので、消去法的に僕の気持ちは漠然とノートルダムに傾いていきました。

ノートルダムは宗教哲学では全米随一の名門で、形而上学、大陸哲学、それと一部の哲学史においても非常に優れています(PGRの総合ランキングでは全米13位)。それに、日本人である僕が、プロテスタントの高校を卒業し、ジェファーソンの創った大学で学び、そしてカトリックの大学院に行くなんて、なんとも皮肉というか、おもしろいじゃないか、という気もしました。

もちろん、もう一つ合格しているオックスフォードは最初から単独で第一志望、いわゆる“Dream School”でしたし、合格のメールを受信した時にはほとんど文字通り目を疑いました。ただ、オックスフォードを初めとする英国の大学院は、アメリカの大学院とは違い、ファンディング(財政的支援)のシステムがしっかりしておらず、プログラムに合格しても、奨学金を別に獲得しないと事実上入学できないということもままあるのです。事実、奨学金に関する決定は3月中旬までかかる、ということで、できるだけ期待しすぎないようにしよう、という気持ちでいました。合格しただけでも信じられないし、記念受験、という感じでした。

* * *

そうして迎えた今週の水曜日でした。

* * *

昼過ぎに、先日合格通知をいただいたオックスフォード大学哲学科のP氏から再びメールが届きました。そのメールの題名は「スカラーシップ・オファー」となっていて、高鳴る動悸の中で読んだ最初の文には、
ユニヴァーシティ・クラレンドン・アワードがあなたに授与されるということを報告できることを、私は喜ばしく思っています…
と書かれていたのです! そうです、僕はオックスフォード大学から奨学金をいただいたのです!

「信じられません!」「どうなっているのでしょう!」などと仰々しく書いても今の気持ちを伝えられるとは思いません。僕の力ではとても表現できないようなくらいに興奮していますし、同じくらい感謝の気持ちで一杯です。こうして改めて言葉で説明していると、とても静かだけども恍惚的な気持ちになります。

そして金曜日(昨日)、今度は留学生ファンディングのオフィスから、奨学金の詳細に関するメールをいただきました。説明するとどうしても少し自慢っぽくなってしまいますが、それは僕のいつもの高慢稚気な性格だと思って許してください。

クラレンドン・ファンドは2001年に設立されたもので、その奨学金は「学術的に最も有能な大学院留学生に与えられる」そうです。毎年100人ほどにこの奨学金が授与されていて、これは応募者数の5%以下ということです。

ちなみにクラレンドンというのはオックスフォード出版の最も高名なブランチです。

奨学金の内容はというと、2年間のBPhilプログラムにおける学費全額、カレッジに所属するのに必要な費用全額、そして、僕の場合は、これらに加えて2年分の生活費全額がいただけるということです(生活費に関しては授与されない人もいるようです)。

この「生活費」ですが、2008年度は12940英国ポンドだそうです。これって、間違っていなければ、日本円にしておよそ260万円です…。

あらためて考えると、やっぱりものすごい大事(おおごと)です。

さらに、2年間BPhil(修士号に相当)で学んだ後、DPhil(博士号に相当)に進むことになったら、その時は同じ奨学金に有利な待遇で再び審査してもらうことができるそうです。オックスフォードはファンディングが悪いなんて、誰が言った!?

* * *

ということで、ついに、今後の人生を左右する決断を下す時が来ました。ここまで書いてきた感じでは、もはやオックスフォード以外に迷う余地などないように思われるかもしれませんが、それでも、これほど大きな決断をするということには大変な重圧を感じます。

奨学金をいただいた旨をアドヴァイザのMに報告したときに、少し将来的なプランについて話し合いました。生徒、教授を問わずファーストネームで呼ばれているMことG教授は、カリフォルニア大学バークレー校を卒業した後、(プリンストンからのオファーを蹴って!)オックスフォードでBPhilを取得、その後アメリカに帰国して、ピッツバーグで博士号を取得しました。

Mは、僕が将来はアカデミアの中で働く(つまり大学教授になる)として、どこで働くかは考えているのか、と訊いてきました。最終的にはアメリカの大学に職を求めるのか、それともジェグォン・キム(韓国出身、心の哲学の大権威として活躍中の哲学者。現在ブラウン大学教授)のように、日本に最先端の哲学を輸入して啓蒙したいなんて使命を感じるか、なんて、半分冗談、半分本気で。

僕は、正直言ってそれにはまだ考えが及ばない、と伝えました。昔は漠然と、将来どこで暮らすかは、たとえばどのような人と結婚するかとか、そういう要素で決まるだろうと考えていましたが、今はそういう予定はまったくないので、僕が世界のどこで暮らそうが、最終的には僕の勝手、という感じになっています。

それで、Mがアドヴァイスしてくれたのは、このままBPhilに行き、さらにDPhilに進むということになると、その後アメリカで職を探すならやや不利になるであろう、ということでした。というのも、アメリカとイギリスではの大学・研究機関のシステムが大きく異なっていて、アメリカの大学の多くはやはり自国の大学で、体系的に、教育的指導者としてのスキルも着実に身につけた研究者を望んでいるからです。

一方で、最終的に日本に帰って職を探すとなると、オックスフォードからの学位は、アメリカのトップスクールよりさらに一段上に考えられることになるだろう、ということです。ノートルダムは哲学徒から見れば一流の大学ですが、世界的・世間的な認知から考えると、オックスフォードとはやはり比較にならないです。

BPhilを取得してアメリカで改めてPh.Dを、ということになると、オックスフォードで最初の一年があっという間に過ぎて、そしてまたすぐあの悪夢の出願プロセス、ということになります。(もちろんDPhilにも出願しなければいけないですが、アメリカに戻ってくるよりは簡単でしょう。)

7年もアメリカで勉強して、もうこんな国はもうたくさん、おさらばだよ!という気持ちも少しあります。結局、暮らしということでは日本が一番良い。それか、ヨーロッパのどこか…。一方で、世界的に見てやはり分析系の哲学の中心はアメリカであって、日本では教授としても研究者としても自分で納得のいく職があるかわからない、という気持ちもあります。

とにかく今は、いろいろな人と話をしてみるつもりです。例えば宗教学のF教授はイェールとハーヴァードを蹴ってプリンストンに行ったのですが、それは、一番創造的で充実した研究がそこでできると考えたからで、5年後により良い職につけるかどうかは二次的な問題に過ぎなかったとおっしゃっていました(「だって仕事を探す時がくる前になにかあって死んじゃうかもしれないじゃない!」とおっしゃってました)。皆様からも助言をいただきたい。それと、月末にはノートルダムにも見学に行きます。最終的な決断は、それからです。

客観的にみると、これほどまでに恵まれていることは本当に有難いことで、贅沢な悩みというのはまさにこのことだ、と思います。これを機にもっともっとがんばって勉強しないとなぁ、と思います。
旅人は待てよ
このかすかな泉に
舌を濡らす前に
考えよ人生の旅人
汝もまた岩間からしみ出た
水霊にすぎない
この考える水も永劫には流れない
永劫の或時にひからびる
ああかけすが鳴いてやかましい
……

―西脇順三郎、『旅人かえらず』


posted by Yuuki at 18:39 | Comment(4) | TrackBack(0) | On Schooling/Education
Comments to this post
さすがですね!! おめでとうございます。
おっしゃる通り、どう転んでもすばらしいと思いますので、悩みまくって決めてほしいです!!
Posted by はっせ at 04/29/2008 17:07
>はっせ
さすがに今回ばかりは、「さすが」なんて言われると思い上がってしまうので、あんまり言わないで(笑)。

充分悩んで決めました(次ポスト参照)。オックスフォードにいって転ばないように精進します。
Posted by Yuuki at 04/30/2008 03:59
Thanks for another wonderful article. Where else could anybody get that kind of information in such an ideal way of writing? I have a presentation next week, and I'm on the look for such information.
Posted by George at 01/17/2017 18:52
I do consider all the ideas you've presented on your post. They're really convincing and can certainly work. Still, the posts are very brief for novices. May just you please extend them a little from next time? Thanks for the post.
Posted by Joseph at 01/17/2017 21:46
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